私が好きなヴァイオリニスト

前回のコラムで「上達の秘訣は“弾く”のが半分、“聴く”のが半分」というお話しをしました。

まずはあまり深く考えずにたくさん聴いていただきたいところですが、世界には本当にたくさんの素晴らしいヴァイオリニストがいて、伝説的なレジェンドも、新進気鋭の若手も、みんなそれぞれに良いところがあって、いったい誰から聴いたらよいのか・・・迷ってしまいますよね。

そこで今日はヴァイオリニスト選びの参考にしていただけるように、私が個人的に好きなヴァイオリニストを厳選して・・・3人だけ!ご紹介しようと思います。(大好きなヴァイオリニスト、思い出のヴァイオリニストがたくさんいて、本当に悩みました・・・!)

これも厳選した動画のリンクも貼っておきますので、よかったら合わせてご覧ください。
では前置きが長くなりましたが、ご紹介していきましょう。


アルテュール・グリュミオー(1921-1986)

ハイフェッツやオイストラフが活躍した20世紀ヴァイオリン黄金期の巨匠の1人。ヴァイオリニストなら誰もが知ってるレジェンドです。
彼は私にとって絶対的な永遠の憧れです。演奏を一言で言うならば「気品に満ちた演奏」とでも言いましょうか、粗雑な音は一音たりとも出さず、その音色の美しさはまろやかでつややか。ヴィブラートはうっとりとするほど美しく、いくら聴いていても飽きない音を奏でるヴァイオリニストです。きっと人柄も紳士的で素敵な方だったんだろうな・・・と、どこまでも想像がふくらんでしまいます。
演奏家はもちろん個性が一人一人違いますから、例えば「バッハを聴くなら○○の演奏が」とか「フランス近代ものなら○○の演奏が良いよね〜」などと、いわゆる得意分野があるわけです。ですがグリュミオーはどの時代、どのジャンルを聴いても本当に素敵だな、と思える垣根を超えたパーフェクトな演奏。まさにオールマイティな演奏家だと思います。

「珠玉のヴァイオリン小曲集」
https://www.youtube.com/watch?v=lIlivnXPCGo
どの曲をご紹介するか悩みに悩みました・・・。フランクのソナタなどもぜひとも聴いてもらいたい気持ちをグッとこらえ、短い小曲をたくさん楽しめるこのアルバムを。お洒落な演奏とはこのこと!と納得の演奏です。



ヒラリー・ハーン(1979〜)

アメリカ生まれの女性ヴァイオリニスト。現在40代前半ですが、10代の頃から今までずっと第一線で活躍し、世界的な女性ヴァイオリニストといえば必ず名前があがる存在です。
彼女はまさに「クール・ビューティ」!!表情を全く変えずに難しいパッセージも軽々弾いてしまいます。思い切りが良くキレの良い演奏が特徴で、当時私が勉強していたプロコフィエフのコンチェルトを聴いた時は衝撃でした。リズミックな部分なんて「もうこれはロックなのではないか!?」と思わせるビートを感じるカッコ良い演奏で、憧れに憧れた私はコンクール当日、彼女のように髪をくるくるにカールさせて(私はヒラリー・・・!)と自分に言い聞かせて舞台に立った記憶があります。
彼女はわりと身体を動かして演奏しますが、注目して頂きたいのはそのフォーム。上半身がまったくブレないんです。演奏中体が動いて楽器を持つフォームが崩れては元も子もないのですが、彼女の動きは良いお手本になることでしょう。
今は貫禄さえ感じる雰囲気ですが、20代の頃の彼女はまるでクールな妖精が弾いているようで、見ているだけでも楽しめます。

「プロコフィエフ/ヴァイオリンコンチェルト第1番 Op.19」
https://www.youtube.com/watch?v=YHUxOsWb7wI
上でも書いたこの曲を。第一楽章の後半のリズムがカッコいいところにご注目。ヒステリックになりがちな箇所ですが、正確なアクセントで心躍るビートを感じます。とにかくカッコいいのひと言!



ダニエル・ロザコヴィッチ(2001〜)

最後にご紹介するのは、これからを担う若い世代のヴァイオリニストを選びました。
スウェーデン生まれの現在21歳。クラシックCDで有名なドイツ・グラモフォン社が史上最年少の15歳!で契約を結んだという、まさに新進気鋭のヴァイオリニストです。たまたまYouTubeで彼の演奏を初めて聴いた時、「久々に本物の天才が出てきた!!」と大興奮してしまいました。テクニックも桁外れで素晴らしいのですが、私が魅了されたのは音色の変化と表現の幅広さです。もう出来上がっているのです。特に音色の変化はハッとさせられるものがあり、今まで他のヴァイオリニストが表現してこなかった別の音楽を作っているようにも思います。ヴィブラートも秀逸。
余裕と落ち着きのある演奏で、これぞロマンティックなヴァイオリンの響き!ダニエル!と叫びたくなるほどなので、皆さまもよろしければ一度ぜひ聴いてみてください。

「パガニーニ/24のカプリース Op.1より第24番」
https://www.youtube.com/watch?v=3TEDqQIl3FE
普通は「テクニックを見せる曲」になってしまいがちな曲ですが、彼は違います。あ、この曲って「曲」だったんだ!と思わせる歌い方、音楽性が素晴らしい演奏です。



いかがでしたでしょうか。3人とも本当に素晴らしいヴァイオリニストなので、一度聴いてみていただけたら嬉しいです。
でも1つだけご注意を。この3人はみなさん頂点のヴァイオリニストですが、前回もお伝えした通り、個人の好みはそれぞれです。私が好きでも、みなさんの好きな演奏とは違うかも知れません。そこのところは忘れないでいただいて、入口のガイドと思っていただければと思います。この3人を出発点に、もっと力強い演奏とか、華やかな演奏とか、自分の好みを探っていっていただけると、きっと聴く楽しみが何倍にも広がっていくことでしょう。

こうして憧れのヴァイオリニストや演奏を見つけることも、ヴァイオリン上達の近道です。


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